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きのこ帝国「夏の影」日比谷野音 について。

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思い返せばこの公演を最初に発表されたのは4月の頭だった。

春の匂いを感じ始めた頃、この公演は現実的にイメージをできなかった。

自分にとってはそれくらい楽しみなものであり、先の話であった。

 

蓋を開けてみれば、秋の気配を感じられるような季節になった小雨の中、夏の太陽を隠した8月27日に「夏の影」と題された公演が開催された。

あーちゃん(Gt)、谷口滋昭(Ba)、西村”コン”(Dr)の楽器隊が入場し、最後に長い髪をピンクに染め上げた(染めすぎたらしい)佐藤千亜妃(Vo.Gt)が入場した。

 

あーちゃんは鍵盤に向かい、1曲目はメジャーアルバムのタイトルにもなった「猫とアレルギー」で幕を開けた。過去は憎しみや、絶望を発していた口から“アレルギーでもあなたは優しくなでた”と発せられる。優しく全てを包み込むかのようなこの曲で始まるこの公演はそれだけで大きな覚悟のようなものを僕は感じられた。続いて同アルバムから“夏の影”という歌詞がのせられた「35℃」。そして「パラノイドパレード」と廃盤音源から「畦道で」で昔からのファンの心を鷲掴みにしてしまった。完全にもうここは侵されることのない空間となっていた。が、実は同日すぐ横で盆踊りが開催されていた。どうしても盆踊りの音は我々の元に届いてしまう。そんな中でも佐藤千亜妃の歌を全面に押し出した「ハッカ」を歌い上げた。「夜鷹」で“生きる喜びという 不確かだがあたたかいものに 惑わされつづけ、今も生きている”という言葉と轟音が僕の耳を騒ぎ立て、代表曲の1つである「クロノスタシス」で揺れる体と共に“時計の針が止まって見える現象”のような空間を全身で堪能した。完全に日が沈み、「夏の夜の街」でリズミカルなリズムと懐かしさを感じる鍵盤ハーモニカの音で我々を夜の街に溶かしていった。

MCで「今年は夏フェスに出ず、新しいアルバムを作っていました。」という言葉から新曲の「夏の影」を披露。きのこ帝国はまだまだ新しい音を突き詰め完全に自分のものとしていた。そのまま初期の作品である谷口滋昭のベースから幕を開ける「足首」、「WHIRLPOOL」では小雨の中、息をすることも、何もかも忘れてしまうような轟音を浴びされることとなった。あーちゃんのノイズがまるで形となって雨を降らせてるかのようで、カッパの帽子を被ってる事をなんとなく勿体無いなんて思い始めた。観客のテンションが最高潮となってきたところで人気曲の「海と花束」のイントロが鳴らされる。錯覚を起こしているような空間に包まれ、盆踊りの音など幻だったかのように感じられた。フィードバックから始まり、終わった「ミュージシャン」。これもまた名曲の「夜が明けたら」“復讐から始まって終わりはいったい何だろう”と力強く歌う声。そして、アウトロでは感情を丁寧に爆発させるような楽器隊と佐藤千亜妃。そして先日デジタル配信された“クライベイビー”でも人の愛情を表現し、“21gはどこへゆくのだろう”と新アルバムのタイトルともなる愛の行くえについて‘‘ずっと君のそばに”と言う言葉と愛の深さを物語るようなアウトロで曲を終えた。

そして代表曲の「東京」で本編に幕を閉じた。全てが既に嘘のような時間だった。

 

アンコールの後は「疾走」を勢い良く鳴らし、佐藤千亜妃のMCで「時間が許す限りやりたいと思います。」という言葉の後に「明日にはすべてが終わるとして」でアンコールを締めくくった。あっという間の時間とまだまだきのこ帝国の作り出したこの空間を手放したくない我々はアンコールをやめなかった。

急遽のWアンコールを受けきのこ帝国はステージに戻り、谷口滋昭がグッズ紹介を行っている間にその場で決め、「色々申し訳ないのでもう1曲やります。」と「国道スロープ」 この“屋外の情景”を心から永遠に見て、感じていたいと思った。西村“コン”はドラムの上に立ち我々を煽り、今日一番の笑顔と盛り上がりを観客は見せ、最後にはアンプのボリュームを上げた佐藤千亜妃。最後まで夢のような空間だった。その場から動くことができなかった。

 

 

あの夏の終わりを一生忘れることはないだろう。4人のそれぞれの個性が音となって心に残した記憶はこれからの光となり、同時に一抹の寂しさを感じさせる影も作っていった。

秋の気配を感じていたこの日、2016年の夏の最後に一生侵されることのない記憶を焼き付け、蓋を閉め僕の夏を終わらせていったのは、紛れもなく“きのこ帝国”だった。


夏の影

夏の影

渦になる

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